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東京高等裁判所 昭和34年(う)2557号 判決 1960年3月01日

被告人 中条親光

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中六十日を原判決の本刑に算入する。

理由

弁護人の控訴趣意第一点について

所論は、原判決は被告人が昭和三十四年八月二十二日下谷郵便局において、井出保雄所有の衣類等在中のスーツケース一個を窃盗した旨判示しているが、本件記録に顕われた各証拠によれば、被告人は被害者である井出保雄から右スーツケースを預つて保管中これを自分の所有としたものであるから、右スーツケースは被告人の占有していたものであり被告人の行為は窃盗罪には該当しないものである。原判決はこの点において右事実について不法に公訴を受理し、審理を尽さず、証拠の証明力の判断を誤り、事実を誤認し、法令の適用を誤つた違法があると主張するものである。

しかし、被告人は公判廷において右窃盗の事実を自白しているのみならず被告人の司法警察員に対する供述調書並びに井出保雄の被害届、同人の司法警察員に対する供述調書を総合すれば被告人は右被害者に対し上野駅構内に行つて洗面してくるよう勧めその間荷物の番をしているからと云うので被害者が一時被告人に右スーツケースの看視を依頼して右郵便局を立ち出た間にこれを自己のものとする意思で恣に持ち去つたものであることが認められるから右スーツケースの占有は当時依然として被害者にあり、被告人は単にこれを看視するのみで、その保管の委託を受け、占有を取得するには至つていなかつたものと認められるのである。

従つて原判決の認定は相当であり、原判決には所論のような違法はないから、論旨はすべて理由がない。

同第二点について

所論は原審が前記事実が窃盗行為に該当しないことは記録上明らかであるのに本件を簡易公判手続のまま審理判決したのは訴訟手続の法令違反があると主張する。

しかし原判示一の事実が窃盗罪に該当することは第一点に判示したとおりであるから、所論はその前提を欠くものでありその他記録を調査するも原審が簡易公判手続を取り消さなかつたことが違法であるとは認められないから論旨は理由がない。

同第三点について

所論は量刑不当を主張するものであるが本件記録を調査し被告人の前歴、本件各犯行の動機、犯情、犯罪後の状況等諸般の事情を総合考察するも原判決の量刑が重きに過ぎるものとは認められない。論旨は理由がない。

(裁判官 坂井改造 山本長次 荒川省三)

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